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© 2024 Oizumi Yuta

足し算とかけ算

2024-11-25

足し算はかけ算に比べて難しい。例えば、

2 + 7 = 9

3 × 3 = 9

かけ算では 9 を因数分解すれば 3^2 となり、どのような道筋で 9 に至ったのかが明らかだ。

しかし足し算では 9 を見てもそれが 2 と 7 の足し算で生まれたのかどうかは分からない。他にも 3 + 6 や 4 + 5、あるいは 1 + 1 + 7 といった組み合わせも考えられる。

算術の基本定理と足し算の複雑さ

算術の基本定理によって、すべての整数はかける順序を除いてただ一通りの素数の積に分解する。

例えば 6 は

6 = 2 × 3

となり、分解はこの方法だけである。

一方で足し算の場合同じ結果を生む複数の足し算の組み合わせが存在するため、この一意性が失われる。

交換不可能

足し算とかけ算は相性が悪いようだ。足し算とかけ算はその順序を交換することができない。「m を足してから n をかける」操作と「n をかけてから m を足す」操作は一般に異なる結果を生む。

例えば 2 に 3 をかけてから 1 を足すと

2 × 3 + 1 = 7

一方 2 に 1 を足してから 3 をかけると

(2 + 1) × 3 = 9

となる。

かけ算は足し算を内包する

かけ算は足し算によって表現できる。しかしかけ算によって表現できない足し算がいくつもある。

例えば 3 × 5 は 3 を 5 回足すことで表現できる。

3 × 5 = 15 = 3 + 3 + 3 + 3 + 3

しかし 4 + 7 は素数となり 4 と 7 のかけ算に分解することはできない。

4 + 7 = 11 = (4 と 7 のかけ算では表現できない)

足し算による混沌とした世界

算術の基本定理に見られるように整数の世界はかけ算によって整然とした世界が成り立っているが、そこに足し算が加わることによって混沌とした世界に様変わりするようである。

例えば

6 (= 2 × 3) に 1 を足すと 7 となり合成数から素数へと変わる。

14 = 2 × 7 に 1 を足すと 15 = 3 × 5 となり素因数メンバー総入れ替えとなる。

ときに足し算は次のようなとんでもないことをやらかす。

1024 (= 2^10 ) に 1 を足すと 1025 となり高く積み上げた塔が崩れ落ちるようである。ジェンガが崩れ落ちる瞬間のあの絶望感にも似ている。

かけ算の住む静かな世界に足し算が移り住んできた結果、かけ算の悲鳴が聞こえてきそうである。

足し算が生む神秘

しかし足し算によって神秘的な現象が現れることもある。

例えばバーゼル問題という、すべての正の整数の 2 乗の逆数和は π^2 / 6 に収束する現象である。

1 + 1/2^2 + 1/3^2 + ・・・ + 1/n^2 + ・・・ = π^2 / 6

このように足し算とかけ算(2 乗)が織りなす摩訶不思議というか、奇跡というか、とにかく美しい現象があるのも事実である。

もしかしたら足し算は無限によってかけ算と調和するのかもしれない。有限だとその神秘的な姿を現してくれないのだろうか。

しかし有限でも足し算とかけ算が美しく調和した現象もある。その一つが完全数である。約数はかけ算の世界の概念であるにもかかわらず、それらを足すと自分自身に一致するという不思議な現象が起こる。

世界線を移動する足し算

足し算はかけ算によって分断された世界を行き来する手段という一面も持っている。

例えば偶数にどんな整数を掛けても偶数であることに変わりはない。しかし 1 を足すことでその世界線を移動することができる。一方どんな整数に 1 をかけても結果は自分自身にしかならない。

足し算は「違い」を生み出し「変化」をもたらす。それは混沌にも見えるが、だからこそ足し算には無限の可能性が秘められているのではないか。かけ算が秩序を築くのに対し、足し算はその秩序を破り新しい秩序や神秘を創造する。

果たして足し算とかけ算が完全に調和する日は来るのだろうか?それは気の遠くなるような壮大な旅かもしれない。

だがその日は必ず来ると信じている。足し算は単なる操作以上のものだ。それは混沌をも内包し秩序の中に新たな美を創り出す。人類がまだ知らない「数の神秘」を探る旅の中で足し算がさらなる真理を照らしてくれるはずだ。そしていつかその先に見えるのは足し算とかけ算が完全に調和した美しい数の世界だろう。